最終更新日 2024/1/31
企画・執筆・編集者:興信所探偵ナビ 編集部
離婚するときについて回るのがお金の話ですね。
婚姻期間中に作り上げた財産をどう分けるかという嬉しい話もありますが、借金がある場合や、相手がこっそり借金していた場合に、その借金はどうなるのか気になりますよね。
借金を作ったのが婚姻前なのか婚姻中なのかのタイミングや借金の目的などで、離婚時の借金の扱いが変わってきます。
まず、離婚するときの借金の取り扱いの前に、そもそも相手の借金が理由で離婚ができるのかということについて調べてみました。
離婚したら借金の支払い義務はどうなるの?クレジットカードの支払い義務は?
離婚したら夫婦の借金はお互いにどうなるのでしょうか?結論から言いますと、「共通の借金」は財産と同じように夫婦で返済する義務があります。この場合のポイントとしては「共通の借金」であるということで、夫や妻がそれぞれに借金したものであれば、それは離婚してもそれぞれに返済義務が発生します。
婚姻状態であれば、ともに助け合って借金の返済を行うことも多いですが、離婚となれば他人であり、それぞれに返済義務が戻るわけです。
そのため離婚時には、誰が借金したものか、それは「共通の借金」なのかの切り分けを明確にする必要があります。
例えば、妻の趣味で始めた高額のダイエットジム。妻のクレジットカードで36回払いで支払って、離婚時に支払い残がある場合は、これは普通に考えられるように妻の借金となります。
また、結婚前にローンで購入していた夫の車などは、離婚時にまだローンの返済が残っているのであれば夫の支払い義務となります。
このように、離婚時には借金状況を洗いざらい明確にして、それぞれの場合において返済義務があるのか、またどれくらいの比率であるのかを公証役場で離婚公正証書(離婚契約書)を作って明記し、夫婦の間で残債務を清算しておくといいでしょう。
離婚公正証書とは?
Q. 離婚に関する公正証書は、どのような条項から成り立っているのですか。
離婚給付等契約公正証書といいますが、①離婚の合意、②親権者と監護権者(監護権者とは、子の監護養育をする者で、親権と分離して別に監護者を定めない限り、親権者が当然監護養育すべきことになります。)の定め、③子供の養育費、④子供との面会交流、⑤離婚慰謝料、⑥離婚による財産分与、⑦住所変更等の通知義務、⑧清算条項、⑨強制執行認諾の各条項のうち、当事者の要望・必要性に応じてこれらの項目の中から選んで記載します。
離婚公正証書(離婚給付等契約公正証書)は個人が作ることはできません。公証人と呼ばれる公的に認められた文書作成の専門家が作成します。
作ってくれるところ
居住地域を管轄している「公証役場」で作ってもらいます。公証役場では、公正証書作成に必要となる元資料を準備するサポートをしてくれるわけではないので、公正証書作成のために必要な書類は、自分たちで事前に準備しておく必要があります。
記載する内容
公正証書に記載する内容は、財産分与、離婚慰謝料、親権者と監護権者の決定、子供の養育費に関すること、子供との面会交流の時期や回数など、その他の離婚の合意内容が含まれます。作成するメリット
夫婦間だけでまとめた協議内容では、文書として残していても強制力がありません。ですので、夫婦でまとめた資料を元に、法的に強制力のある離婚給付等契約公正証書にしておくことがとても大切です。例えば、この離婚給付等契約公正証書に、住所変更等の通知義務を記載することで、慰謝料や養育費などが支払われなくなっても、連絡が取れなくなる可能性が低くなったり、また、強制執行認諾条項を記載することで、裁判をしなくても相手の給料や財産の差し押さえの強制執行をすることができるようになります。
離婚に際しては、面倒くさがらずに離婚給付等契約公正証書を作られるといいでしょう。
作成費用
公正証書の作成にかかる費用は、公証人手数料令第9条に定められていて、手数料はその目的価額の額面(慰謝料や養育費などの金額)に応じて変わります。例えば、
慰謝料が100万円以下であれば、手数料は5,000円となります
慰謝料が1000万円以下~500万円超えであれば、手数料は17,000円となります
財産分与という考え方
離婚時に考えなくてはならないのが「財産分与」です。
「財産分与」とは、離婚の際に行われる、文字通り婚姻生活で築いてきた財産(共有財産)を適切に分割して、それぞれが公平に与えられるようにすることです。
財産分与の対象になるもの
「財産分与」の対象となるのは、婚姻期間中に夫の給料で購入した資産や、妻のパート代で購入した資産など、夫婦で購入したもの全てが対象となります。
具体的には、財産分与の対象となるのは「現金」や「預貯金」をはじめ、「自動車」、「有価証券」、「持ち家」や「土地」などの不動産などがあります。
ここで重要なポイントですが、「財産分与」は、プラスの資産だけではないということです。すなわち、借金というマイナス資産も「財産分与」の対象となり、場合によっては借金も公平に分与されるということになります。
夫婦がどこまで共通の借金として負債を負わなければならないかと言うと、婚姻生活期間中に発生したすべての借金が財産分与の対象ではなくて、日常家事債務のみが対象となります。
日常家事債務は夫婦が家庭を営む上で必要となる債務のことです。
具体的には、光熱費、食費、医療費、保険料、子どもの養育費、教育費など。また家具や家電製品といったものから、家族で行った娯楽施設、家族旅行等も含まれます。
財産分与の対象とならないもの
財産分与の対象にはならない財産として、「特有財産」というものがあります。特有財産とは、民法に規定されていますので、ご紹介します。
第762条【夫婦間における財産の帰属】
① 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
「婚姻前から片方が有していた財産」と「婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産」は、特有財産なので、財産分与の対象には当然なりません。
具体例を挙げれば、独身時代に貯めた定期預金や婚姻中に発生した相続によって得た不動産などが考えられます。
財産分与の対象にならない借金は、基本的には「個人責任の原則」の考えのもと債務者本人に支払い義務が生じます。
例えば、「妻が内緒でローンで購入した高級なアクセサリー」だったり、「夫が内緒で借金して通っていたキャバクラ」などは、債務者本人に支払い義務が生じます。
ここで安心してはいけないのがクレジットカードの取り扱いです。
夫婦で使っているクレジットカードを使って借金を作った場合は、「個人責任の原則」が適応されない場合があるので、最初からクレジットカードは夫婦でも分けていたほうが無難です。
離婚したら借金は折半になるの?
繰り返しになりますが、「共通の借金」は夫婦で折半することになります。この場合の「共通の借金」と言うのがポイントで、婚姻期間中に夫婦の共同生活の中で生じた負債のみが対象となります。ですので、婚姻期間中に夫がギャンブルで負った借金などは「個人責任の原則」の考えのもと債務者本人に支払い義務が生じます。
ただ、折半の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦の共同生活の中で生じた負債のみですが、離婚時点で負債額が資産額を上回る場合、つまり負債だけが「財産分与」となる場合は、折半というわけではありません。
折半と言うと、50対50の支払い義務ということですが、裁判実務的には、夫婦での話し合いで借金の負担額(割合)を決める事ができます。
例えば、家族のために購入したキャンピングカーも、実質的に夫だけしか使っていなかった場合は、話し合いの合意のうえで、借金の負担額(割合)を夫8:妻2の比率にすることもできます。
この借金の負担額についても離婚公正証書(離婚契約書)を作って明記されることが望まれます。
次からは、より具体的に離婚した場合の支払い義務についてみていきましょう。
離婚したら妻の借金は夫に支払い義務が発生するのか?
結婚するまではわからなかったけど、結婚してみたら妻が浪費家で、借金してまでブランド品を買いあさる始末。このような妻の借金が我慢できなくて離婚した場合に、その妻が借金した借金は夫にも支払い義務があるのでしょうか?
結果から言いますと、婚姻期間中に妻が個人的に負った借金などは「個人責任の原則」の考えのもと妻に支払い義務が生じます。
しかし一方、婚姻生活を継続するために必要となる住宅ローンなどの借金は、債権者として契約した名義には関係なく、この場合は夫婦で返済する義務があります。
妻が借りた借金が、婚姻生活と関係のない借金であるのか、または妻だけが使用した遊興費や贅沢品なのかで、支払いの義務が誰なのかが決まります。
それゆえ、離婚するときには、お互いの借金をすべた洗い出して、それらが夫婦の共同生活の中で生じた負債なのか、あくまで妻や夫の個人の負債なのかを区分し、夫婦で返済する借金であるのか、借りた本人が返済する借金なのかを明確にします。
離婚したら旦那の借金はどうなるの?
夫名義の車であっても、婚姻中に購入したものであれば実質的には共有財産となり「財産分与」の対象になります。離婚時の「財産分与」の考え方は、基本的に財産形成時にどの程度寄与したかを考慮して、できるだけ公平になるように折半するようにします。
基本的には、「財産分与」は離婚時の車の価値(評価額)を折半することが原則ですが、車の購入時期やローンの支払い状況によって違ってきます。
また、購入から年月が経過して財産的価値がない場合(評価額がゼロ)にも、財産分与の対象とはなりません。細かくみていきましょう!
結婚前から車を所有していた場合
結婚以前に購入していた車や、親などから譲り受けた車の場合は、財産分与の対象にはなりません。旦那名義の車は、旦那の所有となります。
婚姻中に購入した場合
婚姻中に購入した場合は、旦那名義であっても共有財産となり「財産分与」の対象になります。この場合、離婚時に折半する方法としてわかりやすいのが、車を売却して現金化することです。現金に変えることで、夫婦で折半がしやすくなります、
また折半の方法に関しては、車のローンの残債があるか、また車を売却して清算するかで、折半の方法が違ってきますので見ていきましょう。
ローン残債なしで売却して清算する場合
ローン残債なしの車を売却して清算する場合は、車の価値を査定してもらって、査定額を現金化して折半することになります。
ローン残債なしで売却せず清算する場合
離婚後も旦那が車を保有したままの場合は、離婚時の査定額の半分の金額を妻に渡すことになります。
ローン残債ありで売却して清算する場合
車の査定額からローン残債を差し引いて、プラスになった金額を折半することになります。また、査定額からローン残債を差し引いてプラスにならない場合(オーバーローン)は、財産分与の対象としません。
ローン残債ありで売却せず清算する場合
車の査定額からローン残債を差し引いて、プラスになった金額の半分を妻に渡すことになります。車の保有者である旦那が、残りのローンを支払うことになります。また、プラスにならない場合(オーバーローン)は、財産分与の対象としません。
表にまとめるとこのようになります。
売却して清算 | 売却せず清算 | |
ローン残債なし | 査定額を折半 | 査定額の半分を妻に支払う |
ローン残債あり | 査定額からローン残債を引いてプラスを折半 | 査定額からローン残債を引いてプラスを妻に渡す |
ローン残債あり (オーバーローン) | 財産分与の対象としない | 財産分与の対象としない |
離婚したら持ち家でローンなしの場合どうなるの?
持ち家の場合も車と同じく、婚姻中に夫婦で協力して獲得した財産であれば共有資産とみなされます。不動産を所有する際には、どちらかの名義になっていることが多いですが、購入時の名義には関係なく共有資産として「財産分与」の対象となります。
家を売却して現金化する場合
すでにローンを完済した持ち家であれば、売却して現金化することが、一番わかりやすく折半しやすい方法です。一般的には、住み慣れた家を売却するのではなくて、一方が子供と一緒に住み続けることが多いようです。
片方が持ち家を譲り受ける場合
どちからかが、持ち家を譲り受ける形にする場合は、譲り受ける側が、相手にその対価を支払うことになります。
持ち家の財産としての評価額を専門家に依頼して時価評価額を算出してもらう必要があります。そして、譲り受ける側は、評価額の半分を相手に支払うことになります。
例えば、時価評価額2,000万円の持ち家に住んでいて、離婚後は妻が譲り受ける場合には、妻は夫に対して2,000万円の半分の1,000万円を夫に支払うということになります。
また不動産の場合は、譲渡した側に「譲渡所得税」がかかることもあるので注意が必要です。
旦那や妻の借金問題で離婚できるの?
借金は離婚理由になるのか?
旦那が借金をしているケースでは、多くの場合、生活費に回すお金が無くなり、少しずつ生活が苦しくなってゆき、満足な家庭が維持できないことになることが多くあるようです。
その場合、借金している旦那から逃れるために、離婚することも一つの選択肢となるでしょう。
しかし、夫(妻)の借金が理由で離婚できるかどうかは、実は離婚手続きの種類や、借金の状況によって異なっており、夫(妻)の借金に正当性があり、夫(妻)が離婚に合意しない場合は、離婚できない場合がありますので注意が必要です。
その条件などを見ていきましょう。
協議離婚、調停離婚の場合
「協議離婚」とは夫婦間で話し合って、お互いが離婚に同意することですが、この「協議離婚」の場合は、借金をしているかどうかにかかわらず、相手の合意の上、離婚届を市町村役場に提出します。
離婚の理由は、離婚手続きには影響されません。
また、「協議離婚」では話がまとまらず、家庭裁判所に持ち込んで解決してもらう「調停離婚」の場合でも、最終的には夫(妻)が合意したのであれば、離婚届を市町村役場に提出することで離婚が成立します。
離婚裁判
家庭裁判所での「離婚調停」でも夫(妻)が合意しない場合には、離婚裁判となります。
離婚裁判になった場合は、離婚するためには「法律上の離婚理由」の条件を満たすことが必須となります。
法律上の離婚ができる理由は、民法770条第1項で定められた法定離婚原因として5つありますが、「婚姻関係を継続し難い重大な事由があること」が離婚ができる大前提となります。
(裁判上の離婚)
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
出典:民法770条
「婚姻関係を継続し難い重大な事由があること」とは?
民法770条第5項の婚姻関係を継続し難い重大な事由の具体例としては、
・配偶者からのDV(暴力や暴言)
・セックスレスや性的異常
・嫁姑の仲が悪く、改善の意思が全く見られない
・過度な宗教活動による生活破綻
・浪費癖・ギャンブル癖などの金銭問題
・犯罪行為をして服役中
・長期の別居で婚姻関係が破綻している
等があげられます・セックスレスや性的異常
・嫁姑の仲が悪く、改善の意思が全く見られない
・過度な宗教活動による生活破綻
・浪費癖・ギャンブル癖などの金銭問題
・犯罪行為をして服役中
・長期の別居で婚姻関係が破綻している
また、借金が原因で婚姻生活を営むことができなくなった場合以外にも、「婚姻関係を継続し難い重大な事由」とみなされると、離婚の理由と認められる場合があります。
配偶者から悪意で遺棄されたときとは?
民法770条第2項の配偶者から悪意で遺棄されたときの具体例としては、「生活費を出さない」「健康な状態なのに働く意思がない」「正当な理由なき別居」などが挙げられます。
民法第752条には、夫婦間の義務である「同居の義務」「協力義務」「扶助の義務」が定められています。この義務に違反した場合、離婚原因になります。
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
出典:民法752条
夫の借金が原因で、夫が家に帰らずにいる場合は、「同居義務」違反や「協力義務」違反とみなすこともでき、離婚の理由と認められる場合があります。
同居義務違反、協力義務違反の具体例としては
・生活費はきちんと送っているが浮気相手の家にいて帰ってこない
・単身赴任などの理由もないのに、ほとんど家に戻らない
・配偶者を家から閉め出している
・実家に帰って戻ってこない
・配偶者に家事の全てを強制する
等があげられます・単身赴任などの理由もないのに、ほとんど家に戻らない
・配偶者を家から閉め出している
・実家に帰って戻ってこない
・配偶者に家事の全てを強制する
三大義務「扶養義務」とは?
借金のために生活費を家庭に入れなかったりした場合は、「扶養義務」違反とみなされ、離婚の理由と認められる場合があります。
扶養義務違反の具体例としては
・別居中の相手に生活費を送らない
・生活費を渡さず、生活を困窮させる
・病気でもないにも仕事をせずに家計を支えようとしない
・生活費を渡さず、生活を困窮させる
・病気でもないにも仕事をせずに家計を支えようとしない
等があげられます
このように、借金のために三大義務(同居義務、協力義務、扶養義務)の放棄や婚姻生活が崩壊することで「婚姻関係を継続し難い重大な事由」とみなさる場合は、離婚の理由と認められることがあります。
事業として夫が借金をしていても、円満に家族を養っている家庭は多くあると思います。ですので、夫が単に借金している場合だけでは、離婚の理由とはなりにくく、離婚には明確な離婚理由が必要なのです。
まとめ
離婚したら借金はどうなるのか?
基本的には、婚姻期間中にできた「共通の借金」に関しては、財産と同じように「財産分与」の対象となり、夫婦で返済する義務が生じます。
一方、婚姻期間中にそれぞれが負った借金などは「個人責任の原則」の考えのもと、債務者本人に支払い義務が生じます。
離婚時には、共通の資産や負債を明確にして「財産分与」の考えの元、利益だけでなく負債に関しても公平に分けることになります。
資産・負債をどのように分けるかは、離婚公正証書(離婚契約書)を作って公的に明記し、後にトラブルとならないようにしておくことが望まれます。